2-6 波動にのめりこむF子さん
スピリチュアルブームに並走するように『波動』ブームもやってきました。スピリチュアルを語る人は二言目に「波動」を持ち出します。
それは、スピリチュアルにハマりやすい人の特徴として、HSP(ハイリ―センシティブパーソン)の気質を持っている場合が多いのではないかと考えます。
HSPについては広く周知されるようになり、専門家による関連本も多く出ていますから興味のある方はぜひ、書籍などから情報を手にしてください。(あくまでも、医学の視点から書かれたものをおすすめします)
簡単に言えば、HSPな人は、些細な事に敏感に(身体が)反応し、それらがストレスとなって心身ともに大きなダメージを受けやすい人のことを言います。繊細な感覚は、人それぞれで、視覚、聴覚、味覚、触覚、、、など、人間の基本的な感覚だけでなく、第六感的な感覚、中には霊感等も含まれ、一部の感覚が敏感な人もいれば、複合的にいくつかの感覚が敏感な場合もあります。
原因不明の体調不良に悩む人たちの中で、このHSPが関係している場合が多くあるのではないかと思うようになったのは、波動にのめりこんだF子さんとの出会いが私にとって大きく影響しています。
【ケース6】波動にのめりこむF子さん
F子さんが原因不明の体調不良に悩まされるようになったのは出産がきっかけでした。F子さんの実母がすでに亡くなっていたため、里帰り出産ができずに義母のヘルプを受けながらの子育てがスタートしました。
夜泣きがひどく、一日じゅう抱いていないと落ち着かない我が子に手を焼き、夫は出張が多く、ほとんど家に居ない状況。義母も手伝ってはくれるのですが、遠慮もある…。F子さんは少しずつ追い詰められていきました。
もともとF子さんは繊細なタイプで、人の顔色をうかがい他人に自分の意見を強く言えるような性格です。気晴らししようとでかけてもすぐに大きな声で泣き出し暴れる我が子と一緒では余計に疲れてしまうため、児童館などの子育てスペースに行くことも出来ず親子二人で過ごすばかりの生活になっていきました。
妊娠を機に仕事を辞めたので、職場復帰の予定もなくただただ子育て中心の生活。F子さんは長く暗いトンネルの中にいるような気持になっていきました。
F子さんが初めてパニック発作に襲われたのは、子供が1歳半になるころです。その日もいつもと同じように午前中は子供を公園に連れて行きました。昼食のために自宅に戻ろうと、駄々をこねて大泣きする子供をなだめすかしてやっと帰宅した直後のことでした。
急に息苦しくなり、深く呼吸をしようとしても苦しくて窒息してしまうのではないかという恐怖に襲われました。必死な思いで夫の携帯に電話をしても夫は出ません。しかたなく、F子さんは119番に連絡しました。
親子ともに救急車で運ばれたところまでは覚えていますが、次のシーンは、救急処置室のベットの上でした。すぐに、我が子のことを心配し看護師に声を掛けると、院内の保育室でみてくれているとのこと。ホッとしました。
その後、あらゆる検査が行われましたが、直接原因となる疾患などは見つかりません。パニック発作ではないかという診断が下りました。
しばらく休んでいると夫が職場から迎えに来てくれて、家族で帰路につきました。
これをきっかけに、F子さんは頻繁に発作に悩まされるようになりました。呼吸の苦しさは過呼吸によるものだということで、過呼吸の処置を覚えどうにか落ち着く手段を身につけたのですが、全身の蕁麻疹や、急な嘔吐など、身体のありとあらゆる不調が彼女を襲うのです。そのたびに病院で診てもらうのですが疾患は見当たらない。
発作のたびに寝込むことが増え、そのたびに子供の遊び相手も出来ず、F子さんの目が届く室内で遊ばせて過ごすことが増えていきました。
検索で評判の良いクリニックなどを見つけては、この苦しみの原因を知りたいと受診したのですが、症状はいっこうに良くなりません。以降、10年近く病気を抱えたままの辛い生活が続きました。
やがてF子さんは、こうした原因不明の病には霊的、スピリチュアル的な影響を受けていることもあるということをインターネットで知り、さまざまな情報を検索する中で、自分と似たような人がスピリチュアル系のセラピーを行って改善したというブログ記事に目が留めたのです。
F子さんは、早速、ブログで見つけたセラピストの元を訪れました。波動調整を行ってくれるというセラピストは、F子さんの身体に直接触れることなく、F子さんの乱れた波動を調整してくれるというのです。
施術を受けながら、F子さんの苦しみに耳を傾けてくれるセラピスト。
ご自分の魂を、子供のため、夫のためと言って遠慮させていたでしょう。あなたの魂の声が泣いています。「もっと話を聞いて!」って。
だから、こうして身体にサインを送ってきたのでしょうね。
F子さんはセラピストの話に妙に納得しました。施術が終わると、テーブルの上に(波動水)なるものが置いてあり、この水は「あなたの波動を整える」力があるとのこと。また、施術の効果を維持するためのパワーストーンで作られたオリジナルのブレスレットを購入しました。
これが、F子さんがスピリチュアルにハマっていったきっかけです。
そこからは、医師への受診よりも、スピリチュアルのセラピスト巡りに夢中になりました。そんなF子さんの努力もあってか、発作の頻度が減っていくのを実感しました。
ただ、不思議です。夫が出張から帰って自宅に数日過ごし、再び出張に出かける日に限って発作になるというある法則に気づいたのです。
セラピストに相談すると、「ご主人の波動バランスがF子さんの波動を乱している。ご主人は非常にパワフルな人でしょう」と。確かに、夫はパワフルで、徹夜仕事も平気でこなし国内外を渡り歩くパワフルな人です。
セラピストに波動を整える器具を紹介され、屋内の各所に置くように勧められました。
それから5年の月日が経ちます。夫は単身で海外赴任になると、F子さんの発作は劇的に改善しました。子供も中学生になり、パートで仕事に出られるようになり、パート先で友達も出来てようやくF子さんに明るい日々が戻ってきたように感じました。
ところが、今度は思春期の我が子がかつて自分が苦しんでいた発作と同じような状況になってしまったのです。ちょうど中3で受験のストレスがあったのかもしれません。子供は学校を休む日が増えました。それでも、どうにか高校へ進学でき、受験から解放されてようやく健やかな日々が戻ってきたと思ったのですが、F子さんの子供は、変わらず頻繁に発作を起こすようになり、せっかく入った高校も休みがちになり、ついには不登校、そして退学することになってしまいました。
かつて通っていたセラピストの所へ我が子を連れて行くと、子供は「二度とあそこには行きたくない」と言います。理由を聞くと「そういうのではない。違うから!」と。
幼い頃、自分が床に臥せることが多かったことに対して我が子に申し訳なさを感じていたこともあり、F子さんは子供を甘やかし、言いなりのような関係になっていました。
この頃、F子さんはすっかりスピリチュアルにハマっていたのですが、我が子はそのスピリチュアルを真っ向から否定します。「そうじゃない!そういうんじゃない!」と。
意見がかみ合わないまま、F子さんは家に居る子供の世話に追われパートを辞めざるを得なくなりました。
その後、深刻なことが起きます。実は、F子さんのお子さんは脳腫瘍を患っていたのです。自分と似たような症状だと、スピリチュアル系のセラピーでの改善しか頭になかったため、医療機関への受診が遅れたとは、よもや誰も口に出来ません。もともと、F子さんは自分が苦しんだ症状がいわゆる医学では改善できなかったと思い込み、西洋医学を否定するところがあったのです。
幸い手術が成功し、お子さんは元気に回復され、高卒認定試験の受験を予定するまでになりました。
そして、F子さんの自宅には、さらに波動グッズが増えました。
[F子さんの生い立ち]
F子さんは、地方にある大きな商店街でお店を営む両親と兄の4人家族で育ちました。父親は祖父から継いだひとつの店舗から、複数の支店をもつまでに事業を拡大させたやり手です。地元の人たちからの信頼も厚く、町おこし事業などにも参加するバイタリティーのある人でした。が、家では非常にワンマンで、周囲からの評判を非常に気にするあまり、子供たちへの躾も厳しく何度手を上げられたか分かりません。F子さんの右耳は父親の平手打ちが原因で鼓膜を傷つけ聴こえづらくなりました。
周囲からの評判はF子さんは気が利く良い子です。父も鼻が高かったことでしょう。F子さんは感覚が非常に鋭く、人が考えていることが読めるようなところがありました。その能力は、耳が聞こえづらくなってから余計に研ぎ澄まされていったように思います。
F子さんが高校卒業と共に、実家を飛び出したのは必然だったのかもしれません。東京の専門学校へ進学し、そのまま東京で就職しました。
F子さんが結婚したのは25歳の時、自分が勤めていた会社の社長から紹介されて出会いました。大手企業のエリートサラリーマン。あまり気の利いたことはしてくれませんが、頼りがいがあるところに惹かれました。
ただ、夫はいわゆる仕事依存の傾向にありました。子供が生まれるとなおさら、仕事に没頭し、家に居ることがほとんどなくなっていきました。「この人はあまり、子供が好きじゃない人だったのかも…」と思うようになったのは、我が子を産んでからのことになります。
自分の夢や目標に対して邁進する人でしたが、その夢や目標の中に自分と我が子は入っていない…という寂しい気持ちを感じずにはいられなかったのは容易に理解できます。
それでも、F子さんが発作を起こすたびに、夫は国内に居れば、できるだけ自宅に戻ってくれます。ある時などは、ちょうど大阪出張中だったのですが、仕事を1日切り上げて戻って来てくれました。
一方で、夫が海外赴任になると、不思議と発作が起きなくなりました。夫がいない寂しさも発作の原因の一つではなかったのか?と思っていたF子さんは、夫の不在が症状を改善させたことを不思議に思いました。
その後、F子さんは病苦からほとんど解放されたのですが、我が子の心配と看病に追われる日々となります。
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放っておけば死に至る深刻な病気にかかったにもかかわらず、その治療をスピリチュアルにのみ求め、人間が長い時間をかけて、進化と叡智を積んできた医学の力を借りずに、命を落とす・・・。
ということは、けっして、あってはなりません。
医学も科学も100%正しい、絶対の真実と断言できまでは至っていませんが、人類の英知とともに精いっぱい研究しつくされ、常に進歩を目指しているものです。特に、医学の世界では、厳しい審査や、実験や調査が繰り返され、
「もっとも治療として行うにはふさわしい方法」が取り入れられています。
それをスピリチュアルを傾倒する人たちは、「国や製薬企業の陰謀」などというような根拠が明確でない説を信じます。信ぴょう性を疑うこともせず、ただ、自分が信じるスピリチュアル信者の言葉を信じます。それは、まるで、電磁波から攻撃を避けて白装束で山奥で暮らしていたある新興宗教の信者と似ています。
確かに難しい病気で苦しむ人にとって、あらゆる手を尽くしたいと願うことは当たり前の思考です。でも、そこで、可能であった治療・治癒への道を閉ざし、結果として、状況を悪化させている人が、実際にはどれくらいいるでしょう。
原価などほぼない、ただの水を[波動水]などといって、病気の原因を波動であると断言する、そうした人たちがどれだけ人体と医学、物理学を学んだのでしょうか?効果/効能などが分かりづらい怪しい施術に、膨大なお金を使ったうえに、犠牲になった人がどれだけたくさんいるでしょうか…。
医療においてはエビデンスという厳しい審査が不可欠で、そのエビデンスをもってしても副作用問題や薬害をすべて取り払うことは不可能です。なぜなら、人間の身体は一人ひとり違うからです。合う人もいれば、合わない人もいます。合うタイミングもあれば、合わないタイミングもあります。
そうしたことを、すべて西洋医学の(悪)に仕立ててしまうことに無理があり、無知すぎます。
もっと学んでください。もっと学ぼうとしてください。
西洋医学による副作用を、陰謀や悪という言葉にすり替えてしまうのが、偽物スピリチュアルの罠です。
病人に「治る」と言って水を飲ませても、副作用はない。それは当たり前のことです。病気が悪化すれば「好転反応」と言えばよいのです。恐ろしい世界です。
一方で、
スピリチュアルで病気が治った人がいる…と言います。
こうした現象を科学的な視点で見ると、これは、「自律神経」や「免疫力」以外の何物でもないのではないかと思います。
笑いで病気が治った人がいるように、免疫力は生命力の源ですから、その力は、未知なる力、本人の治ろうとする力が湧くかどうかにかかっています。
特に、どこを調べても原因が見当たらない体調不良は、スピリチュアル商売が入り込む絶好の機会です。
[病(やまい)は気から]
だからです。
特別な水を飲んだから。特別な施術を受けたから。特別な場所で祈ってもらったから。挙句には、特別な人に触ってもらったから…。そうした(行為)が直接的に効果をもたらしたのではなく、そうした行為によって(精神的な安定)がもたらされ、自律神経が整ったり、免疫力が上がったりしたのではないでしょうか?「これで治る」と信じたものに身体を預けた際に湧き出た免疫力(生命力)が、運よく治癒へ導いたのです。
それを、
〇〇は効く。
〇〇でがんが消えた。
などと考えてしまうのは危険思考だと断言します。
スピリチュアルが治したのではないのです。スピリチュアルで精神的なストレスが軽減された結果、ストレスからの影響が減り、本来の身体の治癒力が上がったり、神経のバランスが整った結果、なのです。
ですから、高額の水でなくてもいい。高額の施術でなくてもいい。のです。
では、
スピリチュアルにおける「副作用」は、なんだと思いますか?
・・・それは「死」です。
西洋医学を否定し、適切な治療を受けずに招いてしまった死を指します。
スピリチュアルに傾倒した人は、西洋医学を悪と考える人が多すぎます。そして、彼らの中には、HSP(ハイリーセンシティブパーソン)も多いのです。HSPの人は、感覚ですべての判断をしてしがちなのです。メンタルの状態が身体感覚に大きく影響する人は要注意です。感覚の源に本人の価値観が強く影響してしまうのです。
医学の力を無視してはいけません。スピリチュアルを取り入れたければ、上手に併用したらいいのです。スピリチュアルだけを信じて、医学の力を無視するなら、「それで自分が命を落としてもいい」という覚悟の上で行うべきです。
人間が持つ免疫力は未知数です。医学の力を借りつつ、自分の心を救うために、上手にスピリチュアルを利用できるくらいにとどめておくべきなのです。
与えられた命を全うするためには、学ぶ力と手に入れた知識を使うバランスが非常に大事なのです。